本と私②
- Toru Takahashi
- 2024年3月15日
- 読了時間: 4分

「もう❤️部長さんったら....。」というフレーズが、今もくっきりと頭に残っています。思春期の男の子は、誰もが通り過ぎる通過儀礼でした。田舎の若者が今は死語となっている「エロ本」を手に入れるのは、至難の業でした。
エロティシズムは、写真からではなく、主に活字から入ってきました。特に、川上宗薫とか宇能鴻一郎の文章表現は、興奮するに値するものでした。ストレートな表現を極力避けて、比喩表現の巧みな文章は、未体験の少年には、刺激が強いものでした。
さて、昭和54年に「わいせつ文書販売」の有罪判決が出されました。四畳半襖の下張事件と呼ばれています。翌年、上告は棄却されて有罪は確定。雑誌『面白半分』の社長に15万円、編集長の野坂昭如氏には10万円の罰金が課せられました。
判決文要旨(Wikipediaより)
一、文書のわいせつ性の判断にあたつては、当該文書の性に関する露骨で詳細な描写叙述の程度とその手法、右描写叙述の文書全体に占める比重、文書に表現された思想等と右描写叙述との関連性、文書の構成や展開、さらには芸術性・思想性等による性的刺激の緩和の程度、これらの観点から該文書を全体としてみたときに、主として、読者の好色的興味にうつたえるものと認められるか否かなどの諸点を検討することが必要であり、これらの事情を総合し、その時代の社会通念に照らして、それが「徒らに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」といえるか否かを決すべきである。
二、男女の性的交渉の情景を扇情的筆致で露骨、詳細かつ具体的に描写した部分が量的質的に文書の中枢を占めており、その構成や展開、さらには文芸的、思想的価値などを考慮に容れても、主として読者の好色的興味にうつたえるものと認められる本件「四畳半襖の下張」は、刑法一七五条にいう「猥褻ノ文書」にあたる。
当時18歳だった私は、あまり興味をもたずにいて、吉行淳之介氏や井上ひさし氏など、有名な作家たちが証人になった以外、あまり覚えていません。それよりも、フィクションを読む方が、はるかに面白かったからです。
問題視されたこの作品は、大正6年発行で、著者は、かの有名な永井荷風だそうです。大昔の発禁本です。それを昭和の後期になって、面白半分に世に広めたことを罰するという愚行でした。YouTubeで朗読を聞きましたが、口語ではない言い回しに、独特のリズム感がある良い作品だと思いました。
今は、発禁本ではなく、誰でも自由に読むことができます。判決は不当です。当時、過去の発禁本を軽々しく取り上げたことに怒りを覚えた人でもいたのでしょう。表現の自由という点において憲法違反は、明らかですが、こんな人たちがいるからこそ、少子高齢化が進んだなどと、論理の飛躍した発信をしたくなります。
人間には、それぞれの欲望の実現に向けて生きています。物欲、名誉欲等々は露骨ですが、性欲をむやみに隠蔽するのは、日本が文化的後進国だからだと思います。同じニュアンスの発言をしている有名人もいますが、断じて「不倫は文化」なんかではありません。
シルビア・クリステルの「エマニエル夫人」という映画は、衝撃的でしたが、日本用にカットされている映像が多く、肝心要が見られずに残念でした。外国では、例のモザイクこそ、おかしな性的強調の小細工とされています。そうしなければ崩れ去る日本の風紀なんて、恥ずべきことだと思います。
では「わいせつ」とは、日本ではどう定義されているのでしょうか。個人の行動としては、「自由」の定義に似ていると思います。すなわち「人に一切迷惑をかけないこと」が前提になります。そう定義するならば、不快な思いをさせるだけでもダメだということになります。
しかし、わいせつな事柄を、ただ思い考えるならば、それは自由です。しかし、何にしろ行動に出したら、アウト!性犯罪は繰り返すのだそうで、中毒性のある犯罪です。ヨーロッパでは、その前科がある人にGPS発信機を付けさせるとまで、言われているそうです。
今は、YouTubeで動画データを通販で安価に購入して、エロビデオが見られるという、いい時代になっています。川上宗薫さんのような名人芸がなくなったのは、残念なことです。
ストーリー性が欠けていたら、エロティシズムは成立しません。試しに例の通販で何本か見たところ、美人さんが出演しているのはいいとしても、展開がワンパターンで、すぐに飽きてしまいました。
江戸時代には春画」と言われる、性行為の絵がありました。その時代は男女とも大らかに楽しむ対象だったとか。この日本にも、良い時代があったようです。今は、そうあらねばならないと思います。また、描写力抜群の官能小説が読みたいです。
今の若い世代の方々。このような考え方をどう思いますか。それとは関係ないようですが、少子化をどうしていけばいいのでしょうか。未来は、大らかな性欲によって明るくなると、勝手な思いを抱いているのですが。
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